仙台地方裁判所 昭和28年(行)10号 判決
原告 渡辺東太郎
被告 仙台北税務署長 外一名
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用を原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、「(一)被告仙台北税務署長が、(イ)昭和二十七年六月十七日、物品税滞納者訴外宮城食品企業組合に対する滞納処分として、一九五一年型オーター号四輪普通型トラツク丁二一一台(登録番号九〇五)についてした差押処分(ロ)原告の国税徴収法による昭和二十七年十一月十一日附再調査の請求に対し、昭和二十八年三月三十日附徴第四四八号を以てした請求棄却の決定、(二)被告仙台国税局長が、原告の国税徴収法による昭和二十八年四月十七日附審査の請求に対し同年五月三十日附仙局徴々第三九六号を以てした請求棄却の決定をいずれも取消す。」との判決を求める旨申し立て、その請求の原因として、
被告仙台北税務署長は、昭和二十七年六月十七日同税務署職員大蔵事務官訴外氏家寿春に、仙台市東九番丁百十五番地訴外宮城食品企業組合事務所において、同組合の物品税滞納を理由とする滞納処分として、一九五一年型オーター号四輪普通型トラツク丁二一一台(登録番号九〇五)を差し押えさせ同年七月十二日その登録(自動車登録令三十七条)を経由した。しかしながら、右物件の所有者は、原告であつて同組合ではない。即ち原告は、昭和二十七年一月二十八日同組合に対し金三十万円を、利率日歩金五銭、遅延利息日歩金十銭、弁済期同年三月二十八日(利息は一月分前払)と定めて貸し渡し、右債権の担保として、同組合に同組合所有占有の右自動車外機器三点を譲渡(内外共に所有権が移転)させ、占有の改定により同組合からその引渡を受けた。そして同組合は未だ借金債務を履行しないから右物件の所有権が内外共に原告に属することはいうまでもない。そこで原告は同年十一月十七日、国税徴収法第三十一条の二により同被告に、右事情を具申、再調査の請求をしたところ、同被告は昭和二十八年三月三十日徴四四八号を以て、「右譲渡は、道路運送車輛法第五条、「昭和二十七年四月一日から施行、同法附則参照)により登録を受けていないから原告はその所有権を以て国に対抗することができない」として、請求棄却の決定をし、同年四月一日原告にその旨通知した。そこで原告は昭和二十八年四月十七日国税徴収法第三十一条の三により更に被告仙台国税局長に対し、前掲事情を具陳審査の請求をしたところ、同被告も亦同年五月三十日、仙局徴々第三九六号を以て、前理由と同一理由で請求及び差押処分自体に対する審査の請求(同条一項後段)をも棄却する旨の決定をし、同年六月三日その旨原告に通知した。
原告が右各決定がいうように未だ登録を経由していないことはこれを認める。
しかしながら、国税徴収法第十条にいわゆる「財産」とは所有物件の意で道路運送車輛法第五条は民法第百七十七条と同じように私経済取引の動的安全を図ることを目的として設けられた規定であるところ、国税滞納処分は、国家権力たる徴税権の強制取立手段であつてかの私権の強制実現方法たる強制執行と全然その性格を異にするから国はいわゆる第三者に該当しない。従つて本件譲渡につき原告がまだ登録を受けていなくともその所有権を以て、国に対抗することができ、国は登録の欠缺を理由として右所有権を否認することができない(旧自作農創設特別措置法にいわゆる買収権者たる国がいわゆる第三者に該当しないことについては最高裁判所昭和二十五年(オ)第四一六号昭和二十八年二月十八日大法廷判決参照)。よつて、ここに、前記差押処分、再調査の請求棄却の決定、審査の請求棄却の決定の各取消を求めるため本訴に及ぶと陳述した(立証省略)。
各被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の差押、同登録、金銭消費貸借、再調査の請求、同棄却の決定、同通知、審査の請求、同(差押処分自体に対する審査の請求を含む)棄却の決定、同通知が為されたことはこれを認めるけれども、その余の事実はこれを否認する。仮りに、原告と訴外宮城食品企業組合との間に、原告主張のような譲渡担保契約、目的物の引渡があつたとしてもその後本件差押当時までの間に当事者がまだ道路運送車輛法第五条による登録を経由していなかつたから原告は本件車輛の所有権を以て国に対抗することができない。(滞納処分は、公法上の租税債権に基き納税義務者の財産を差し押え、これを公売処分に付し、その代金を配分充当して債権の満足を受ける手続で債権が公法的であるという点を除いては実質上私法上の金銭債権実行手段たる強制執行と殆んど異るところがない。成法も、手続の基本的構造を彼比同様に規整している。これをかの特殊の目的から現実即応を尊ぶ農地制度の改革と同日に談ずることができない。)
従つて本件差押処分、再調査及び審査の各請求棄却の決定はいずれも洵に適法妥当であつてその間毫も不当違法の廉がない。よつて本訴請求は失当であると述べた(証拠省略)。
三、理 由
原告主張の金銭消費貸借が成立したことは当事者間に争がなく、成立に争がない甲第一号証によれば原告主張の譲渡担保契約が成立し、その主張の物件の所有権の移転及び引渡があつたことを認めるに足り右認定を覆すことのできる証拠は一も存しない。
そして原告主張の差押、同登録、再調査の請求、同棄却の決定、同通知、審査の請求、同(差押処分自体に対する審査の請求を含む)棄却の決定、同通知が為されたことは被告の争わないところである。
よつて登録欠缺の抗弁について按ずるに、凡そ民事訴訟法上の強制執行において私法上の債権者は私法上の他の債権者に対しては民法第百七十七条第百七十八条道路運送車輛法第五条等にいわゆる第三者に該当し、債権者が債務者から差押財産の所有権の譲渡を受けていても未だ、その登記登録等を経由しない限りその所有権を以て差押債権者に対抗することができないことはいうまでもない。ところで、租税は、固より私法上の債権ではないが一種の公法上の債権であつてその債権的機能において私法上の債権と本質上殆んど相異るところはない。このことは国税徴収法第二条第三条が「国税はこれを原則として私法上の債権に先ち徴収するが、一定の私法上の被担保債権に先ち徴収しない」と規定し、租税債権徴収の順位を私法上の債権取立順位と組み合わせている点等から考えても容易に理解することができる。
次に民事訴訟法上の強制執行は、私法上の権利の強制取立手段であつて、国税滞納処分は国税という公法上の債権の強制徴収手段ではあるが共に権利の強力行使を本体とし両者の間にはこれ又性質上殆んど差別は存しない。債務者の財産差押、換価、充当、所有権の移転等その本筋においては、彼比毫も相隔離することがないばかりでなく、第三者の財産取戻請求(国税徴収法第十四条)、妨害行為の取消(同法第十五条)がかの第三者の異議(民事訴訟法第五百四十九条)、詐害行為の取消(民法第四百二十四条)に類似し、強制売買における担保責任の原則(民法第五百八十六条)の如きも亦滞納処分による売買に類推することができるものと解さなければならない。さすれば国税債権者即ち国も亦実体法上物権の変動における第三者を以て目さなければならないことは勿論である。否、何等優先権を有しない一私法上の債権者すらなお且つこの第三者として法律の保護に与る。況んや、殆んど総ゆる債権に優先する租税債権を有する国(国税徴収法第二条)においておやといわざるを得ない。
原告は、農地制度の改革において国が第三者に当たらないという理由を援いて租税債権者たる国も亦同一の取扱を受けなければならないと主張する。が、しかし、農地制度の改革にあつては、所有者住所の有無、耕作関係の真相等は、「現実即応主義」を採らなければ同制度の目的を達することができないため已むを得ず不動産の「動的安全」を一時犠牲にするに過ぎず、滞納処分にあつてはこの「取引の安定」を「現実の状勢」に譲らなければならない理拠が毫末も存しないから稀有の例外を援いて原則を推断しようとする所論は採用に値しない。(われわれは格段の事情がない限り、公法上の取引にも民法第百七十七条第百七十八条等を類推適用することができるものと解する。)
それ然り而して本件差押物件につき原告が未だ道路運送車輛法第五条による登録を受けていないことは原告の認めるところである。から、叙上説明の理由により、原告は、その主張のように同組合から本件物件の所有権及び占有権の移転を受けてはいるが、なお、これを以て徴税権者たる、国に対抗することができないものといわなければならない。
果して然らば、本件差押、及びこれを是認した再調査の請求棄却の決定及び審査の請求棄却の決定には毫も違法、不当の点がない。
よつて、原告の本訴請求を理由がないものと認め訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条第九十三条、第九十五条に則り主文のように判決する。
(裁判官 中川毅)